インタビューを前に、いささか気負っていた私だが、「ハジメマシテ!」と開口一番、元気よく、そしてお茶目に彼女が笑ったとき、私の緊張は解放された。ダークで物静かなジャズ・シンガーというより、実際は真夏のそよ風のような彼女。後はホリーに導かれるまま、この生粋のストーリー・テラーに身を任せることにしよう。
TOMO 来年には歌手生活15周年を迎えるそうですね?
Holly え、本当!? ワォ! 知らなかったわ。教えてくれてありがとう。でも、本当に15年だなんて全く思いもよらなかったのよ!
あなたに感謝しなきゃ。
TOMO では何か特別なことは考えてなかった?
Holly 今から考えるわ(笑)。でも、ちょうど今ベストアルバムを準備してるところなのね。14、5曲入るから、そうね、1年ごとに1曲とすれば正に15周年記念になるかしら(笑)。アルバム・ジャケットも過去の写真を集めたコラージュなのよ。
秋に発売予定のこのベスト・アルバムは、これまで限定版や各国盤のみに収録されていたレアな音源が中心になる模様。それにしても、自分のキャリアを忘れるなんて、ひたすら前進あるのみ!
のホリーらしいエピソード。
TOMO 来る5月28日、日系文化会館の新ホール落成記念パーティーにて演奏するそうですが、このオファーを受けた理由は何だったのでしょう?
Holly 今まで日本へはツアーで何度も行っていて、とっても大好きな国なの。でも考えてみたら、ここカナダに住んでる日系の人達の前では一度も演奏したことがなかった。せっかくのチャンスだから是非やってみたかったの。日本といえば、『あの映画』と同じような経験をたくさんしてるわ(笑)
日本を訪れた外国人が、言葉の通じない異国で繰り広げるドタバタを描いた「ロスト・イン・トランスレーション」のことだ。
Holly 一番最悪だったのが、TV収録のために東京から横浜へ移動するとき、どうしてもトイレに行きたくなったのね。そこには有料と無料の2つのトイレがあって、誰かが『有料がいい』って言うので入ったら、トイレに見たことも無いボタンが沢山付いてたの。私は好奇心が旺盛だから、触っちゃいけないと思いつつもそのボタンを押してしまったの。そしたら急に水が飛び出してきて顔も洋服もびしょ濡れになったのよ!
もうすっかりメイクも台無しで、係員に助けを求めたときは本当に恥ずかしかったわ。そこで私が学んだのは『ボタンには触れるな』という教訓ね(笑)
そして「日本食のことなら何でも私に聞きなさい!」と公言するほどの彼女が唯一食べられなかったものとは?
Holly まぐろ納豆は無理だった(笑)。TV収録されていたので、ニッコリ笑って『美味しい!』と言わなきゃいけなかったの!
あの一件以来すっかり凹んで『日本食マスター』の称号は返上したわ(笑)。でもトロントでは地元の日本食レストランによく行くし、自分でもお寿司を巻けるのよ、エヘン!

知られざるホリーの青春秘話。いかにして彼女は夢を守り、戦い、そして達成させたのだろう?
Holly 19歳の頃学校でジャズを学び、生活のために色んな仕事をしたわ。ヘルシー・フード店のレジや、ケータリングとかね。
TOMO 歌うことが生活の全てでは無かったのですね?
Holly もちろん音楽は全ての中心だったわ。でも若いうちは人生勉強も同じくらい大切だと思うの。ケータリングの仕事で街から2、3時間離れた会場に行くときは、いつも音楽を聴きながらドライブ気分で楽しかった。でもね、一歩会場に入ると、そこには社会の縮図があって、誰がボスで、どれが子分で、というヒエラルキーを学んだわ。当然、ケータリングの私は一番の末端ね(笑)。仕事が終われば今度は自分の事をやるの。ライブのブッキングをしたり。ポスターを自分で作って、それを真冬の深夜2時にバケツを持って貼りにいったり(笑)もう二度と嫌だけど、当時は何でも自分でやったわね。
TOMO これから本格的に歌手として活動を始めようという矢先、交通事故でアゴの骨を粉砕骨折し、医者に歌手生命は絶望だと宣告されてしまったそうですね。その言葉を聞いて、どう思いましたか?
Holly 普通、本人に直接言わないでしょ!? そんな絶望的なこと。私じゃなかったら自殺してるわ、きっと(笑)。でも私は無理だと言われたら逆に『やってやろうじゃない!』というタイプ。ワイヤーで固定されてるアゴを使わずに、腹式だけで発声練習をしたわ。あんなに練習したのは生まれて初めてで、ワイヤーを外す頃には、以前よりも歌が上手くなってたの! 今の私があるのも、きっとあの時の発声練習のお陰だと思うわ。それから忘れられないのは、母親が作ってくれたスープね。固形物が一切食べれなかったので、ありとあらゆる食材をジューサーで細かくして、考え付く限りのスープを作ってくれたの。そういう家族の暖かいサポートが私を支えてくれたのよ。
疲れた体に、そっと染み入るようなホリー・コールの歌声には秘密がある。どんなに悲しいスタンダードを歌ったとしても、彼女の中に溢れるボジティブなエネルギーが歌声を通して伝わってくるのだ。
そして最後にホリーが語ったメッセージは、彼女の生きた人生そのものであり、僕らにとっては貴重な人生の指針となるアドバイス
Don't make the safe choice
Holly 失敗を恐れず、リスクを負うこと。もしも道を誤ったら、そこからまた始めればいい。安全な道ばかりを選べば、あなたはそれ以上先へは進めないわ。私は音楽一家に生まれ育ったこともあって、人は『歌手になるために生まれてきた』と私を表現するけど、そんな事はない。皆さんと同じように努力して、そして自分で勝ち取ってきたものばかりなのよ。